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Novel Creator として創作活動しています。小説『ネット恋愛』・・・3の倍数日に連載中☆ミ・・・☆

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小説『ネット恋愛』第1章 第11話 伝言

第①章 出会い  

 第11話 伝言

 
 ミリアンへ告白した日は土曜日だった。

 翌日の日曜日は仕事が休み。そしてその翌日の月曜日に出勤した日のことだった。

 昼休み、いつものようにミリアンがいる三階フロアへ行くと、僕を見る南米の人たちの雰囲気がいつもと違っていた。ミリアンの姿もなかった。僕が拍子抜けしたように突っ立っていると、一人の男性が近づいてきた。

 フィデルだった。

 フィデルはペルーからやってきた労働者で、僕より五歳年上。日本語が堪能で陽気な性格なので、僕ともすぐに親しくなった。そんなフィデルが沈痛な面持ちで僕に近づいてきたのだ。僕は何か嫌な予感がした。

 フィデルは、僕の正面に立つと流暢な日本語で話しかけてきた。その口調は重々しい。

 「ミリアンのお母さんから伝言があります」

 「ミリアンのお母さんが僕に?」

 「はい。伝えてくださいと言われました」

 そういえば、ミリアンと一緒に働いている彼女の母親の姿も見えない。

 フィデルは話を続けた。

 「ミリアンは、またブラジルに帰ります。家族みんなで帰ります。だからミリアンだけを日本に残すことはできません」

 それを聞いた僕の呼吸が一瞬止まった。しかしすぐに短く息を吸い込むと早口でフィデルに尋ねた。

 「いつブラジルに帰るの?」

 「わかりません。だけど、それは近いです」

 僕はショックで黙り込んでしまった。

 ミリアンは日系人として日本に永住していると思い込んでいたため、ブラジルに帰るなんて思ってもみなかったからだ。ミリアンとその家族は就労のために、一時的に日本に滞在しているだけだとフィデルに知らされたのだった。

 ショックでうつむいて黙り込んでしまった僕にフィデルは同情したのか、僕の左肩を軽く叩くと何も言わずに僕から離れ始めた。

 「フィデル」

 僕がフィデルの名前を呼ぶと彼はこちらを振り返った。

 「今日、ミリアンは休み?」

 「休みですね」

 「病気じゃないよね?」

 「はい。用事で休んでいます」

 「そっか。フィデル、わざわざ伝えてくれてありがとう」

 僕は力なく微笑みながらフィデルに礼を言うと、フィデルも微笑みを浮かべて頷き、そして去って行った。フィデルが立ち去ったあと、僕もすぐに“南米のフロア”をあとにしたのだった。



 ショックだった。

 本当にショックだった。

 こんなにミリアンのことが大好きなのに。それなのに、どうして?

 アルバイトを終えて帰途に就くなか、京葉線電車内の僕は、乗降扉に全身を預けるようにもたれかかりながら、車窓から見える灰色のマンション群を茫然自失となって見つめていた。

 ミリアン・・

 愛しいミリアンの笑顔を思い浮かべたとき、見つめていた風景は瞬く間に遠のき、右目からは一滴の涙がこぼれ落ちた。

 葛西臨海公園駅で下車してから、アパート近くにあるコンビニまでの徒歩十五分の道のりは、まったく距離を感じさせなかった。

 コンビニへ入った僕は、好きでもないお酒であるブルーハワイを買うと、隣接する総合レクリエーション公園に入った。そして公園の街灯に照らされた冷たそうなベンチに腰を下ろした。

 ベンチに座るとすぐにビンの蓋を開けて、淡い青色の液体であるブルーハワイを口に流し込んだ。味なんてどうでもよかった。とにかく心の中に溜まっている悲しさと重苦しさを流し去ってしまいたかったのだ。

 太陽が完全に沈み込んで薄暗くなった空には、すでに満月が昇っていた。

 「ミリアン・・」

 僕は満月を見上げながら愛しい人の名前を呟いた。そしてさらに美味しくないアルコールを口に注ぐ。一息では飲み干せないお酒を、僕は鼻をすすりながら何度も何度も口に注ぎ込んだ。

 でも酔えない。

 普段からお酒を飲んでも陽気になれない僕には、アルコールを口から注ぐことなど自棄酒を飲んでいるという自分自身へ向けたパフォーマンスでしかなかった。そんなことをしても自分の心が晴れることなどないと十分に分かっていた。だけど何かしないことには、この重苦しい悲しみから逃れ得ようがないのだ。

 アパートに戻ってすぐにベッドに伏した僕は、自分だけの空間へ戻ってきたことで感情をストレートに吐き出した。そして男ながらに泣いた。隣の部屋との壁の厚みが薄いことなど気にすることなく、声をあげて泣いた。

 心の中で、男のくせにこんなことで泣くなんて・・という冷たい理性の声が聞こえてきた。だけど僕は悲しみの感情に抵抗することなく、ただ素直に泣き続けた。泣きながら両手で鷲掴みにした毛布がいつもより柔らかく感じた。悲しみで胸が張り裂けんばかりの僕にとって、いま両手で掴んでいる毛布だけがこのうえなく優しく感じた。そして、いつのまにか僕は眠りに就いていたのだった。



(次回、小説『ネット恋愛』の更新は10月9日の予定です)







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